【朗読】「生きてるうちにしたいこと」シェリル・クロウ{字幕設定}村上春樹:翻訳
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- čas přidán 11. 07. 2024
- 「生きてるうちにしたいこと」シェリル・クロウ
「生きてるうちに、ちっと愉しい思いをしたいだけだ」
となりに座った男が、出し抜けに、前後なくそう言う。
ウィリアムと名乗ったが、きっとビルとかビリーとか
あるいはマックとかバディーって、呼ばれているはず。
とにかく不細工な顔をしていて、
生まれてから愉しい思いをしたことなんて、
一度だってあるのか?
僕らは火曜日の午後に、馬鹿でかいカーウォッシュの
向かいにあるバーで、ビールを飲んでいる。
世間のまともな人たちは車を洗っている。
昼休みに、スカートとかスーツ姿で、
それでもホースを使い、ごしごし車を磨いている。
そしてぴかぴかになったダットサンやビュイックに乗って
電話会社とかレコード店に戻っていく。
つまり、そいつらは
僕やビリーとはぜんぜん違う人間なわけ。
※
生きているうちにちっと
愉しい思いをしたいだけ。
そう思うのは俺一人じゃないはずだ。
どうせ死ぬまでのことだ。
少しでも楽しもうじゃないの。
サンタ・モニカ通りの上に太陽が登るまで。
僕は朝のうちからビールで酔っ払うのが好きだ。
ビリーはバドワイザーの瓶のラベルをはがして、
それをカウンターの上で
細かくちぎるのが好きだ。
それから大箱に入ったマッチを次々に擦って、
太い指のところまで燃やすんだ。
それから火を消して、悪態をつく。
そして足もとでバドワイザーの瓶が
くるくる回転するのを眺める。
幸福そうなカップルが店に入ってきて、
危険なくらい近くまで寄ってくる。
バーテンダーが求人広告からちらっと目を上げる。
※
生きているうちにちっと
愉しい思いをしたいだけ。
そう思うのは俺一人じゃないはずだ。
どうせ死ぬまでのことだ。
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